洗練と卓越と郷愁@ロオジエ

昨今多くの新進気鋭のフレンチレストランが、世界的にも高い評価を受けている。 しかし長年のグランメゾンには、やはりそれだけの理由があり、それだけの意義がある。

いただいたのは、MENU DÉGUSTATION。内容としては下記の通り。
①アミューズ-ブーシュ
②キャビア・オシェトラ そば粉のガレットで巻いた紅富士サーモン
きゅうりのムースとコンディマン
③温かな貝類の取り合わせ 佐賀県産サフラン風味
三陸産ホタテ貝のマリネ シトロン・ノワール、プティポワのブイヨン
④フランス産オマール・ブルー バーベナペッパーを効かせたキャロットのムースリーヌ ラビオル«ゼブラ»添え、ビスクソース
⑤ピジョンの胸肉 クルートエピス もも肉のコンフィ
甘酸っぱい小茄子 ブーダンピジョン 紫キャベツのコンフィチュール
ヴァードゥバンを効かせたジュ
⑥フランス産フロマージュ
⑦アラカルトよりお好みのデセールを
⑧フリヤンディーズのワゴン

アミュージュブッシュから、思わず歓声をあげてしまいそうになる、華やかで愉しいスタート。ハーブの軽やかなクラストにラディッシュのフレッシュさが楽しいものから、甘みと旨味の強い紫にんじんをふんだんに使ったサブレ、ひよこ豆クラッカーとミントのクリームや、ウイキョウと唐墨のタルトレットと、目だけではなく舌にも変化に富んだ喜びを与えてくれる。

合わせるのはCongyのブランドノワール。Cote des bancsの地に数%栽培されるピノノワールの、ふくよかで芳醇な味わいが存分に感じられる。極限までドサージュを抑えた、テロワールの香がダイレクトに感じられる仕上がりは、Olivier Collinならではの技量に支えられたもの。RMだからこそなし得る、幾度飲んでも飲み飽きないシャンパーニュである。
肌寒い中、きりりとしまったブランドブランよりは、温かみを持って受け入れてくれる骨子のあるブランドノワールをいただきたい天候であったが故の、by the glassでのお願いであったが、なんとも記憶に残る素晴らしいシャンパーニュと共に、お料理をスタートできたことに感謝。

スープはクリーミーなフォームが際立つ、オニオンポタージュ。そっと添えられた蕪のソルベが、どこまでも濃厚で重量感あるスープに、軽やかさを与える。柔らかな曲調に転じたシャンパーニュから漂う、ほのかに香るトーストグリエの香ばしさに、見事に売れた洋梨の芳醇な甘みが、まろやかなオニオンの風味とマリアージュを生み出し、舌を陶酔に誘う。

ガレットの前菜も、流石の風格が漂うアーティスティックな仕上がり。鱒に、塩味と旨味のバランスが素晴らしい宝石の様なオシェトラキャビア、添えられたキュウリに巻かれるのはサーモンのタルタル。少し厚みがあり、素朴でありながらもブレノワールの香ばしさがしっかり感じられるガレットが、ともすれば奢侈な一品とも受け取られかねない組み合わせを、優しく抱き込み落ち着きを与える。

季節の恵みををふんだんに享受した、貝づくしの一皿。薄くスライスされたホタテの下には、ホッキガイ、白ミル、赤貝が。フランがコクとテクスチャーのまとまりを与え、ただのアラマニエールでは終わらせない。エスプーマには、これまた初夏が感じられるグリーンピースが使用され、微かな青味が貝の甘みある後味をきりりと引き締める。
ここでいただくのは、ピュリニーモンラッシェのPremier Crus。ルイジャドといえばGrand CrusとPremier Crusのみを所持することで名高い生産者。花厳な香り、ピシリと決まるミネラルに、一級畑とはいえGrand Crusにひけを取らない濃厚でぎゅっと詰まった果実感。この中にもはっきり感じられる酸が料理に縁取りを与える。

オマール海老のプレートは、身、爪、ラヴィオーリ。限界までオマールの旨味を追求し、あらゆるう方向にその風味を開花させることに成功しビスクは、舌にからまるごとにめくるめく感動を生み出す。薄紙の様に繊細なラヴィオリには、ほぐされた身と爪のコンビネーションがたっぷりと包み込まれて。まさにピュリニーといった気品漂うピノが、樽由来のナッティな風味、加えて力強いぶどうが生み出す、バターやチョコレートの香が広がる存在感で、完璧な皿を更に昇華させる。

メインのピジョンは、胸、ささみ、もも、レバーと、余す所なく命をいただく一品。ふっつりとした歯切れの良さの中に、赤みの力強い弾力があるポワトリーヌは、黄金に輝くバターの香りを薄くまとう。凝縮感ある、なめらかなテクスチャーを持ったソースは、まさに完璧という言葉が相応しい逸品。舌の上に残る長い余韻を優しく受け止めるのは、ニュイサンジョルジュのピノノワール。まるで貴婦人のワルツの様な、気品と華美、優美さと繊細さの調和が、幾重にもなり全ての味蕾を包み込む。

フロマージュのセレクトも、圧巻である。ここ以上に美味しいものはないと熱弁を振るっていただいたコンテは、36ヶ月の熟成。特徴的なナッティな甘みに加え、確かにフランスでもここまで美味しいコンテには出会えないだろうと頷いてしまう、二転三転する旨味が炸裂する。
衝撃を受けたのは、個人的にもっとも好きなチーズの一つである、Tome de Brebi。ブルーチーズのイメージが強いパピヨンによるものと聞いて驚いたが、外皮から薫るスモーキネスに、中央にかけて強まる旨味、甘み。桜葉で香り付けした、驚くほどに桜餅の様な爽やかな味が楽しめるコルシカの様な羊乳チーズや、安定のカマンベールドノルマンディーも、でんと鎮座したEspoirも、思わず唸ってしまうクオリティ。

赤桃のエスプーマには、モヒート風味のソルベが浮かべられて。さっぱりと口を流し次に備えるはずが、ここにも思わず心引き込まれてしまう、とにかく死角のない流れである。

ミニャルディーズは手前から、シュークリーム、木苺のメレンゲ、ソテーされたチェリーが忍ばされたピスタチオクリームのチョコカップに、ブルーベリーのマカロン仕立て。

選択式のメインのデセールは、フルーツトマトとバジルのソルベを。ラズベリーソルベに、バニラのジュレ、乾燥大葉と、一品一品の完成度はさることながら、全てを共に口に含むと、完璧に計算され尽くした調和が生まれる。絶品。

カヌレ、シトロンケーキ、フランボワーズショコラ、珈琲のチョコレート、ラベンダーのキャラメルに、ヌガー。類稀ぬホスピタリティの中にも、人間味溢れるウィットや笑いもあり、グランメゾンにも関わらず、心からくつろいで楽しめる素晴らしい空間を作り出す素晴らしいソムリエ、スタッフの方々にも、心からの敬服を抱きつつ、次回の予約と共に店を後にしたのであった。